相続放棄について
相続放棄の手続き
被相続人(亡くなった人)に借金や税金の滞納があるとか、生前疎遠な関係だったので相続に関わりたくないというように、自分が相続人になることを拒否したいときにとる手続きを相続放棄といいます。相続放棄には、期限や手続きの方法が法律で決まっていて、それを守らないと二度と相続放棄ができなくなってしまいますので、十分に注意する必要があります。
一般的な「放棄」は「相続放棄」ではない
相続人の方とお話ししていると、よく「○○は相続を放棄してるから」とお聞きすることがあります。しかし、よくよく聞いてみると、民法上の相続放棄の手続きをとっていないケースがほとんどです。
一般に、「自分は財産は一切いらないからお母さんが全部受け取りなよ。」といったように、自分が財産を受け取らないと伝えたことを「放棄」と表現します。この行為自体は遺産分割協議や相続分の譲渡といった形で有効となる場合もありますが、相続放棄としては有効ではありません。仮に亡くなった人(被相続人)が多額の借金を負っていた場合、「放棄」をした相続人に対しても債権者は支払いを請求することができてしまいます。
プラスの財産だけでなくマイナスの財産も引き継がず、相続手続きに一切関与しなくてよくなるためには、家庭裁判所で法律にもとづいた相続放棄の手続きを取る必要があります。
相続放棄の流れ
1
相続放棄申述書を家庭裁判所に提出
2
家庭裁判所から照会書が郵送されてくる
3
照会書に回答を記載して家庭裁判所に返送
4
家庭裁判所が申述を受理
5
相続放棄申述受理通知書が郵送されてくる
6
相続放棄申述受理証明書を家庭裁判所で取得して必要なところへ提出(※)
※提出を求められるところ(債権者など)によっては、(5)の相続放棄申述受理通知書のコピーでよい場合もあります。
管轄裁判所
被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所
費用
- 収入印紙 800円
- 郵便切手 84円切手×3枚程度(裁判所による)
- 相続放棄申述受理証明書 1通150円
必要な書類
- 相続放棄申述書
- 被相続人の住民票除票又は戸籍附票
- 申述人(放棄する方)の戸籍謄本
- 被相続人の死亡の記載のある戸籍謄本
- その他、申述人が相続人であることを証明する戸籍謄本一式
※代襲相続や数次相続が発生していたり、兄弟姉妹が相続放棄する場合に用意する戸籍は非常に複雑です。
詳しくは裁判所のWebサイトを参照してください。(裁判所 相続放棄の申述)
いつまでに相続放棄をしなくてはならないか
相続放棄の申述は、「自己のために相続の開始があったことを知ったときから3か月以内にしなければならない」と決められています。被相続人の死亡した日ではなく、「自己のために相続の開始があったことを知ったとき」となっているのがミソです。
自己のために相続の開始があったことを知ったときというのは、判例上、次のとおりに解釈されています。
単純に被相続人の死亡を知っただけではなく、
自分が相続人になったことを知ったとき
(例)第1順位の相続人が相続放棄したことにより相続人になった人は、相続放棄をしたことを知らされたとき
相続人の財産がまったくないと信じていたことについて
相当な理由がある場合には、相続財産の存在を認識したとき
(例)被相続人は生活保護を受給しており財産はないものと確信していたが、数年後に役所から滞納していた健康保険料と市民税の督促状が届いて債務があることを知ったとき
被相続人が亡くなってから3カ月が経過したとしても、状況によっては相続放棄が間に合うケースもたくさんあります。すぐに弁護士や司法書士といった専門家に相談しましょう。
相続放棄の期限は延長できる
相続人が海外に住んでいるとか、相続財産が多岐に渡っていて財産の調査や評価に時間がかかる場合には、家庭裁判所で手続きをとることで相続放棄の期限を延長することができます。延長された期限をさらに延長するよう求めることもできます。いずれも間に合わない理由があることを認めてもらうだけの資料を出す必要がありますので、できるだけ最初の3カ月の間に申述することを目指した方が無難です。
相続放棄が認められないケース
相続財産を処分してしまうと、相続放棄ができなくなるのが原則です。例えば次のようなケースです。
不動産を自分の名義に変えた
銀行口座を自分の名義に変えた
価値のある貴金属類を自分のもの(形見分け)した
株式を売却した
このような行為は、相続を承認したとみなされてしまうため、後で多額の借金が見つかったとしても相続放棄をすることはできなくなってしまいます。相続財産を処分する前に債務を含めた相続財産の調査をしっかりとおこなうこと、相続放棄をするかしないか決める前は相続財産を現状維持のまま管理することが大切です。
相続放棄が認められるケース
相続財産を処分した場合でも葬儀代や病院代など相続財産から費消することが一般的におかしくないと考えられているものや、亡くなってから3カ月たった後でも債務の存在を知らなかったのは仕方ないと判断される理由がある場合は、相続放棄が認められる場合があります。例えば、次のようなケースです。
被相続人の預金を病院代と葬儀費用にすべて使ってしまい、他に財産は何もないと信じていた
両親の離婚で疎遠になっていた親の死を知らされたが、葬儀にも立ち会わず親族から財産はないと聞かされていた
遺言で父親の財産はすべて母親が相続したが、父親の多額の借金を母親が隠していたことが判明した
ただし、相続放棄が認められるためには、相続放棄申述書にきちんとした理由を書くこととそれを証明する資料が必要となります。相続放棄は1度きりしかできず失敗が許されませんので、このような場合には弁護士や司法書士といった専門家に依頼することを強くおすすめします。
自分が相続放棄したら終わりではない
第1順位の相続人である子が相続放棄した場合、それですべてが終わるわけではありません。相続放棄をした人は、最初から相続人ではなかったこととされます。子が全員相続放棄した場合、最初から子がいなかったのと同じになり、第2順位である親や第3順位である兄弟姉妹に相続権が移ります。
第1順位(子)→第2順位(親)→第3順位(兄弟姉妹)と順番に全員が相続放棄をすることで、完全な相続放棄となるわけです。実際のケースでも、子が相続放棄した後、兄弟姉妹へ説明して相続放棄をしてもらうことが多いです。
仮に相続財産に借金しか残っていなくても、親の兄弟姉妹に説明して相続放棄をしてもらう負担を考えたときに、自分が払える範囲ならば、債権者と交渉して分割払いを認めてもらう等して、あえて相続放棄を選択しないという方法もあります。債権者との交渉も弁護士や司法書士の専門家であればスムーズに進みますので、一度相談してみるとよいでしょう。